・・・ K君はまた、朝海の真向から昇る太陽の光で作ったのだという、等身のシルウェットを幾枚か持っていました。 そしてこんなことを話しました。「私が高等学校の寄宿舎にいたとき、よその部屋でしたが、一人美少年がいましてね、それが机に向かっ・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・歴史は繰り返すとすれば今に貴婦人たちやモガたちが等身大のリボン付きのステッキにハンドバッグでもつるしたのを持って銀座を歩くようになるとおもしろい見物であろう。 ついでながら、桿状菌バクテリアの語源がギリシア語のステッキであるのはちょっと・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・ 七味唐辛子を売り歩く男で、頭には高くとがった円錐形の帽子をかぶり、身にはまっかな唐人服をまとい、そうしてほとんど等身大の唐辛子の形をした張り抜きをひもで肩につるして小わきにかかえ、そうして「トーン、トーオン、トンガシノコー、ヒリヒリカ・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・ち一人一人の経歴が文学史的に細叙されているにつけ、つつしんでいる作者の描写が精密であればあるほど、そこにゴーゴリ風のあじわいが湧いて、読者は、全情景、登場人物などのすべてが、自分たちと同じ人間としての等身大をもっていない一つの世界のできごと・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・トインビーの等身大肖像画が壁にかかり大きなロンドン市紋章が樫の渋い腰羽目に向ってきわめて英国風にエナメルの紅と金を輝やかせつつ欄間にかかっている。タイムス。デイリー・メイル。デイリー・ミラア。新聞の散った小テーブルがゴシック窓の前にあって―・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・もう物蔭は少し薄暗くなっていて、物置の奥がはっきり見えないのを、覗き込むようにして見ると、髪を長く垂れた、等身大の幽霊の首に白い着物を着せたのが、萱か何かを束ねて立てた上に覗かせてあった。その頃まで寄席に出る怪談師が、明りを消してから、客の・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫