・・・発狂禁止令を等閑に附せる歴代政府の失政をも天に替って責めざるべからず。「常子夫人の談によれば、夫人は少くとも一ヶ年間、××胡同の社宅に止まり、忍野氏の帰るを待たんとするよし。吾人は貞淑なる夫人のために満腔の同情を表すると共に、賢明なる三・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・それだけに不安も感じれば、反対にまた馴れっこのように等閑にする気味もないではなかった。「あした、Sさんに見て頂けよ」「ええ、今夜見て頂こうと思ったんですけれども」自分は子供の泣きやんだ後、もとのようにぐっすり寝入ってしまった。 翌朝目を・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・ 乏しい様子が、燐寸ばかりも、等閑になし得ない道理は解めるが、焚残りの軸を何にしよう…… 蓋し、この年配ごろの人数には漏れない、判官贔屓が、その古跡を、取散らすまい、犯すまいとしたのであった――「この松の事だろうか……」 ―・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・「神慮の鯉魚、等閑にはいたしますまい。略儀ながら不束な田舎料理の庖丁をお目に掛けまする。」と、ひたりと直って真魚箸を構えた。 ――釵は鯉の腹を光って出た。――竜宮へ往来した釵の玉の鸚鵡である。「太夫様――太夫様。」 ものを言おう・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・バスケットに、等閑に絡めたままの、城あとの崩れ堀の苔むす石垣を這って枯れ残った小さな蔦の紅の、鶫の血のしたたるごときのを見るにつけても。……急に寂しい。――「お米さん、下階に座敷はあるまいか。――炬燵に入ってぐっすりと寝たいんだ。」 二・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・此の過去の事実を永遠に文人に強いて文学の労力に対しては相当の報賞を与うるを拒み、文人自らが『我は米塩の為め書かず』というは猶お可なれども、社会が往々『大文学はパンの為めに作られず』と称して文人の待遇を等閑視するは頗る不当の言である。 今・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ような、当面の問題に関しては、何人もこれを社会問題として論議し、対策をするけれど、老人とか、児童とかのように、現役の人員ならざるものに対しては、それ等の利害得失について、これを忘却しないまでも、兎角、等閑に附され勝である。 しかし、この・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ さらば、何故に児童文学が振わず、不純なるものすら等閑に付せられるか。そこに真実の批評なく、また与論なきがためです。たゞ、正純にして、多感的なる、人生の少年時代を温床となせる児童文学は、どの点より見ても、小型大衆小説にあらず、初歩の恋愛・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・放電についても放電管内の陽極の縞や、陽極の光った斑点の週期的紋形なども最も興味あるものであり、よく知られてもおりながら、ここでもやはり週期決定因子の研究が奇妙にも等閑に付せられているのである。 また、粘土などを水に混じた微粒のサスペンシ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ものばかりでなく、折々は不消化物も与えないと胃の機能が衰えるようなもので、実験中に起るべき種々の困難に出来るだけ遭遇させ、漸次これを除いて最後の結果に到着すると同時に、目的以外の現象にも注意してそれを等閑に附せないような習慣をつけたいもので・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫