・・・しかし歴史を粉飾するのは必ずしも朝鮮ばかりではない。日本もまた小児に教える歴史は、――あるいはまた小児と大差のない日本男児に教える歴史はこう云う伝説に充ち満ちている。たとえば日本の歴史教科書は一度もこう云う敗戦の記事を掲げたことはないではな・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・清長型、国貞型、ガルボ型、ディートリヒ型、入江型、夏川型等いろいろさまざまな日本婦人に可能な容貌の類型の標本を見学するには、こうした一様なユニフォームを着けた、そうしてまだ粉飾や媚態によって自然を隠蔽しない生地の相貌の収集され展観されている・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・いきおい陳腐な本質の粉飾としての形式主義に、芸術至上主義に堕さざるを得ない。 この点プロレタリア作家は全く根底を異にしていると思う。プロレタリア作家こそプロレタリア階級の発展の各モメントとともに発展し得る。プロレタリア作家が唯物弁証的把・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・大名生活を競って手のこんだ粉飾と礼儀と華美をかさねたその場面が、婦女の売買される市場であったということは、封建的社会での女のありかたをしみじみと思わせる。君とねようか千石とろか、ままよ千石、君とねよと、権利ずくな大名の恋をはねつけ、町人世界・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・やつれた体に粉飾してアクセントをつけたとして、それがよいセンスだろうか。美しさの基本に私たちは健康をもとめる。健康な体に、目的にかなったなりをしたいと思う。それには食べ物が確保されなければならない。安心して寝る家を確保しなければならない。人・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・すべての社会現象の全体の関係を人民生活の前に開いてみせず、任意な現象だけをきりとって、さまざまの粉飾でしめした方法こそ、天皇の神聖をかざした軍部のやりかたそのものであった。条理ある社会関係の総体の見とおしを許さず、きれぎれの認識で混乱させた・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・の人々が実際には半ば奴隷の立場に甘んじていて、自分の民族の独立や世界の平和のために良心的な何の発言も行動もなし得ないほど無気力であったなら、その固有の服装が優美であり、みものになるという事実が、卑屈の粉飾以外の何ものでもないことになる。・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・現代文学が、とんでも・ハプンという言葉をつかうような人種の登場によって、真の発展も探求もないテーマを粉飾し、読者をよろこばせることに成功しているならば、それは日本人が日本の言葉――生活を喪失しつつあることを意味するばかりであろう。 専制・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・「現実をわれわれの主観によって歪めたり、粉飾したりすることではなくて、われわれの主観――階級的主観に相応するものを現実の中に発見するのが」新しいリアリズムの態度であるとされた。 当時のこの芸術価値のきめ方を今日顧れば、「文学的作品の観念・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・婦女奴隷の上に悲しくも粉飾された町人の自由と人間性との表示でした。 明治四十年代の荷風のデカダニズムはさきにふれたように、正面から日本の歴史的軛に抗議することを断念した性格のものであったし、大正年代に現われた谷崎潤一郎などのネオ・ロマン・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫