・・・この不思議に熱烈なロシアの田舎教師は、そういう夜々の飾りないみんなの批評を書きつけはじめた。この粘りづよいソヴェトの田舎教師がトポーロフである。国内戦のときにトポーロフはパルチザンを組織し、コルチャック軍と闘った。「五月の朝」が出来るときに・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 私は私式の粘りでこの小さいが愉快な空想を実現するつもりです。どんなにおよろこびになって下さるでしょうか。大変嬉しい計画[自注17]です。木星社の本のこと、このこと、二つの楽しいことです。秋になれば、あなたのお体も少しはよくなるでしょうし。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ここには、作家藤村の独特な生活力の粘りつよさが現れているばかりでなく、今日の私たちの胸をも引き緊める作家としての気魄が感じられる。だが、当時、何かの賞が、藤村のその精神と作品とに対して与えられたということは、どの文学史にも記されていないので・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・これらの作品の題材の特異性、特異性を活かすにふさわしい陰影の濃い粘りづよい執拗な筆致等は、主人公の良心の表現においても、当時の文壇的風潮をなしていた行為性、逆流の中に突立つ身構えへの憧憬、ニイチェ的な孤高、心理追求、ドストイェフスキー的なる・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 日本が世界歴史のこの多岐な頁をしのいでゆく永年に亙っての実力のために、日本人はこれまでの誇りとして自認している勇気を更に多様な沈着な粘りつよく周密なものとしての面に発揮してゆかなければならないでしょうし、社会事情の複雑さについて却って・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・現実を凝視する粘りづよさを作家に求めているのである。作家が自身の作品に深々と腰をおろしている姿には殆ど接し得ないという、「作品と作家の間の不幸な関係は、そのままで放置すれば、作品と作家がすっかり離縁して、てんでに何処へ漂流するかも知れないの・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・我々は、鋭く強靭に、粘りづよく自身の日常闘争を押しすすめよう。そのことによって、政治的に高まり、新しいタイプのプロレタリア作家として自身を鍛え上げよう。よいプロレタリア文芸の働き手はいつも必ず闘争においてひるむことを知らぬ卓抜周密な同志であ・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・ 永年あまりおさえつけられて来たために日本の人の感情にはまだまだ沈着で粘りづよいはずみというものが不足している。はっきりと自分たちの求めているものを見きわめて、その目的を実現させるためには決してへこむことない忍耐づよさで、よいバネのよう・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・ 六十何歳かに達した年で、このように精気のある絵をかく女性の粘りというものに、感服し、よろこびを感じたのであった。実物を見られなくて惜しいという気が切にした。 護国寺の紅葉や銀杏の黄色い葉が飽和した秋の末の色を湛えるようになった・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・ 嘉村氏は、転落する地方地主の生活に突入っていわばその骨を刻むように書いているつもりなのであるが、結局その努力も主題を発展的な歴史の光によって把握していないから、現象形態だけを追うに止り自身の粘り、社会観の基調がいかに富農的なものである・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
出典:青空文庫