・・・プロレタリア婦人作家の実にこまごまと粘りづよい現実の重荷の内容は、良人も作家であるためにやりにくいという割合を遙か越えて、今日の社会の広汎で具体的な階級的重圧に作用されているのである。例えば窪川いね子の「一婦人作家の随想」を開いて見よう。私・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
・・・しかし母である女は、小さい希望を大きくもり立ててゆく愛と粘りづよさをもって、一人の子をも育てて来ているのである。私たち女が、目前の出来上っている力にだらしなく屈しては、ろくなことはない。事大主義にまけない、それが民主の第一歩であることを、私・・・ 宮本百合子 「婦人の一票」
・・・ここには、一人のなかなか人生にくい下る粘りをもった、負けじ魂のつよい、浮世の波浪に対して足を踏張って行く男の姿がある。自分の努力で、社会に正当であると認められた努力によってかち得たものは、決して理由なくそれを外部から侵害されることを許さない・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・即ち時代的変化の血、人間のよってもって立つところをおいている点、何か都会の小市民的インテリゲンツィアというには云い切れぬ粘り、あくどさ、くい下りがある。藤村の右のものが彼として今日あらしめ、「夜明け前」をあらしめており、それは都会的なものと・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
・・・耳の横や食い足りない思いをして居る大きな口のまわりに特に濃く、そして体全体に異様にねっとり粘りついている蒼黒さは東端の貧の厚みからにじみ出すものだ。子供等自身はそれについて知らぬ。富裕なるロンドン市が世界に誇る、英国の暮し向よき中流層を拡大・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 菅氏の性格は相当粘りづよくあったようだし、意志が普通よりもよわかったとも思われない。彼を生き難くさせたのは、彼が理性と真実とについて抱いていた観念の内容と構成とが、権力の動員した、権謀の詭弁との格闘に堪えなかったからでありました。・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
出典:青空文庫