・・・而して彼女の天使の如き純潔何時までも地の栄たれ光たれ。直かれ。優しかれ。美しかれ。神よ、余の弱きを支へ給へ。余をして汝の卑きながら忠実なる僕たらしめ給へ。若輩は徒事に趨るもの多し。願くば余を其道より引き戻し給へ。余は彼女を恋せず。彼女は依然・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 二 日本の家庭の父や母たちは、永年にわたる家庭の友として異性の友人たちをもって、互の家庭の純潔をまっとうしながら友愛をみのらせて来たという経験には何と乏しく貧しいことだろう。その貧しさ乏しさは、若い世代の・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ うす灰色から次第次第に覚めて来て水の様な色がその髪を照らした時、 世のすべての純潔なものは皆その光線の下に集められたかの様に見える。 顔は銀色に光り髪は深林の様に小さい額の上にむらがりかかる。「死」によって浄化された幼児の・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
こんにち、わたしたちがふたたび純潔ということについて語るとすれば、それは、どんな新しい人間精神の欲求からのことだろう。 わたしたちの生活の下で、ある種の言葉は、この半世紀の間に、全く水火をくぐって、傷だらけにされて来た・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 市民的なモラルの基準になるこういうことさえも、私たちは本当に純潔な階級活動家としてまじめに理性的にとりあげていかねばならない。 共産党は外の政党と全くちがう本質に立っている。政権をとることが自分の党の利己的な利益と一致した外のあら・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・ 大変いわゆるお育ちのいい十六のジュヌヴィエヴが女性としての目ざめとともに、自分たちをとりかこむ綺麗ごとと表面の純潔でぬりあげた環境への反逆として、そういう観念の上での破壊を考えたことは分るとして、日本の、それも現実の波に洗われながら働・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・同時に、それを主体的に云えば、一個の社会人・芸術家は、自分の理性がさし示す歴史の前進の方向、情熱がさし示す純潔なる芸術生活への献身を、ひるむことなくわが身をもって実現する当然の自由をもっているのだということを自覚すべき責任があることをも示し・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・その尊敬の情は熱烈ではないが、澄み切った、純潔な感情なのだ。道徳だってそうだ。義務が事実として証拠立てられるものでないと云うことだけ分かって、怪物扱い、幽霊扱いにするイブセンの芝居なんぞを見る度に、僕は憤懣に堪えない。破壊は免るべからざる破・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・忠臣孝子義士節婦の笑う可く泣く可く驚く可く歎ず可き物語が、朗々たる音吐を以て演出せられて、処女のように純潔無垢な将軍の空想を刺戟して、将軍に睡壺を撃砕する底の感激を起さしめたのである。畑はこの時から浪花節の愛好者となり浪花節語りの保護者とな・・・ 森鴎外 「余興」
・・・名利を思うて煩悶絶え間なき心の上に、一杓の冷水を浴びせかけられたような心持ちがして、一種の涼味を感ずるとともに、心の奥より秋の日のような清く温かき光が照らして、すべての人の上に純潔なる愛を感ずることができた」という個所のあるのに対して、特別・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫