・・・ 子供の世界を描いた文学の多くが、何となく清潔感を欠くのは、ここのところの解釈に微妙な関係をもっている。純真ということを、大人の一生懸命さにひきつけて意味づけたり、無心さを、いじらしさと溶けあわさせたりして、大人の感傷に作家が我知らずこ・・・ 宮本百合子 「子供の世界」
・・・彼がこれまで知らなかった女性としての深く大きい生命力とその素朴さ純真さが、近代的なブレークの関心をひき、スーを一人の女として自分の力で目醒めさせることに興味がおかれたのであった。 女として自分のうちに開花させられた世界にひたったスーザン・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・其等の欠点を反省して、より純真な、より高い価値を持った動機に依って、常套打破を試みようとする意向と努力とが含まれて居れば、私も、Unconvention の持つ常套に対する反抗を認めますでしょう。然し、此の一群の人々は、此の標語を振りかざし・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・私は過去の生活が割合に順調であった為めに、それから享容れた或る純真さはあったかも知れないが、他面に於て前に述べた伝統から享容れた欠点のある事も否めない事実であるから、これからは一切の不純な気持、身に附き添った色々なこだわりから離脱し、創作境・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・けれども、学生は、と総括して、まるで平常は本をよみさえしないように云われた時、何か若い胸に湧き立つ思いを感じる青年たちの数は、下らない者よりは多いのが現実であるし、つまりはそれが学生の純真な精神の発露であると思える。〔一九四一年四月〕・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・お互の魂の純真な憧憬を尊ばなければ成らない。或る人が、嘗て抱いていた希望を破壊されたからと云って、希望其ものの本質まで否定する事は許されない。 幸福と云う事、真実な正義と云う事に就て、私共は何の点からも誤たない理解を持っているだろうか。・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・と考え、さは/\と蓮うごかす池の鯉行水の捨てどころなき虫の声なんと今日の暑さはと石の塵を吹くというような純真な作品を生んでいる。釣月軒という常套的な俳号から宗房が桃青という号に改めた感情も、俳諧を言葉や思いつ・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・意識しない伝統のおもりや歪みが、自分のなかでどんなに判断の現実の比重を狂わせているかをさえ心づかぬままの素朴な純真さで、彼女たちの善意が発露のみちを求めたのであった。 読書というものに向うそういう生活的な態度は、ちかごろ新しくふえた若い・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
・・・ゴーリキイはトルストイの女に対する態度に対して純真な疑問を発している。「それはできるだけの幸福を汲みとることのできなかった男の敵意であるか?」と。だがこの女に対する態度の違いの根本原因は、めいめいの階級によって接触した女の種類と形態とがトル・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・人間の最も純真な善意、まじりけのない善良な希望、そのものが現実の歴史の波濤の間でそれなりに表現されず、ましてや成就されないことがどっさりある。善意は現代社会の矛盾のうちでいつも冒険におかれているのである。 経験が多くのものをいう時代もあ・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
出典:青空文庫