・・・それからまた仕方がない、伯父さんのいうことであるから終日働いてあとで本を読んだ、……そういう苦学をした人であります。どうして自分の生涯を立てたかというに、村の人の遊ぶとき、ことにお祭り日などには、近所の畑のなかに洪水で沼になったところがあっ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・男は、鳥の焼き画を描くことや、象眼をすることが上手でありました。終日、二階の一間で仕事をしていました。その仕事場の台の前に、一羽の翼の長い鳥がじっとして立っています。ちょうど、それは鋳物で造られた鳥か、また、剥製のように見られたのでありまし・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・子供たちのするままになって、終日外へほうり出されているようなこともありました。 空の雲は、まりが疲れて、広野にころがっているのを見ました。雲は、あわれなまりを、気の毒に思ったのであります。もし、二度と空へくるような気があるなら、つれてき・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
・・・あの娘は姙娠しよるやろか、せんやろかと終日思い悩み、金助が訪ねてこないだろうかと怖れた。「教育上の大問題」そんな見出しの新聞記事を想像するに及んで、苦悩は極まった。 いろいろ思い案じたあげく、今のうちにお君と結婚すれば、たとえ姙娠してい・・・ 織田作之助 「雨」
・・・てくださいました――私がここから釈放された時何物か意義ある筆の力をもって私ども罪に泣く同胞のために少しでも捧げたいと思っております――何卒紙背の微意を御了解くださるように念じあげます云々―― 終日床の中にいて、ようよう匐いでるように・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・「閑静でいいなあ、別世界へでも来た気がする。終日他人の顔を見ないですむという生活だからなあ」 惣治はいつもそう言った。……厭な金の話を耳に入れずに、子供ら相手に暢気に一日を遊んで暮したいと思ってくるのであった。耕吉は弟があの山の中の・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・午後また注射。終日酸素吸入の連続。如何にしても眠れない。 二十三日、今日も朝から息苦しい。然し、顔や手の浮腫は漸々減退して、殆んど平生に復しました。これと同時に、脚や足の甲がむくむくと浮腫みを増して来ました。そして、病人は肝臓がはれ出し・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・私にとってはその終日日に倦いた眺めが悲しいまでノスタルジックだった。Lotus-eater の住んでいるといういつも午後ばかりの国――それが私には想像された。 雲はその平地の向うの果である雑木山の上に横たわっていた。雑木山では絶えず杜鵑・・・ 梶井基次郎 「蒼穹」
・・・今日は終日霧たちこめて野や林や永久の夢に入りたらんごとく。午後犬を伴うて散歩す。林に入り黙坐す。犬眠る。水流林より出でて林に入る、落葉を浮かべて流る。おりおり時雨しめやかに林を過ぎて落葉の上をわたりゆく音静かなり」同二十七日――「昨夜の・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・さればまた別荘に独り住むもその故ぞと深くは怪しまざりき。終日家にのみ閉じこもることはまれにて朝に一度または午後に一度、時には夜に入りても四辺の野路を当てもなげに歩み、林の中に分け入りなどするがこの人の慣らいなれば人々は運動のためぞと、しかる・・・ 国木田独歩 「わかれ」
出典:青空文庫