・・・乃が故主成氏の俘われを釈かれて国へ帰るを送っていよいよ明日は別れるという前夕、故主に謁して折からのそぼ降る雨の徒々を慰めつつ改めて宝剣を献じて亡父の志を果す一条の如き、大塚匠作父子の孤忠および芳流閣の終曲として余情嫋々たる限りなき詩趣がある・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・それでせっかくこんなに子供のように笑ったあとで、それから後のプログラムの名優達の名演技を見て緊張し感嘆し疲労するのは、少なくも今日の弛緩の半日の終曲には適しないと思ったので、すぐに劇場を出て通りかかった車に乗った。車はいつもとちがう道筋をと・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・そして、政府が表明した勝利の終曲と、その勝利によってもたらされたと教えこまれた日本の世界一等国への参加をよろこんだだけであった。これら三つの戦争は、そのときどきの英雄大将を生みつつ一方では日本の街頭に廃兵の薬売りの姿を現出し、一将功なって万・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・を書いたゴーリキイ自身を、そして、その晩年に於て、新しい人類的見地に立つリアリズムの理解によって六十八年の全蘊蓄の価値を傾けて民衆の歓びとなったマクシム・ゴーリキイの終曲の美しさに思い到らせるのである。「結構さん」と、泣くことのきらいな・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫