・・・思いがけないおついしょうにびっくりして、手にもっていた小さいハンカチーフを絨毯の上へ落した。すると、お菓子のような将校は、いとも優雅にそのハンカチーフを拾って――どうぞ――とフランス語で云いながら渡してくれた。 いよいよメーデーの朝にな・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・そこへ日本から行っている学生が揃って、花見に行ったことがありましたよ。絨緞を織る工場の女工なんぞが通り掛かって、あの人達は木の下で何をしているのだろうと云って、驚いて見ていました。」 暑い夏も過ぎた。秀麿はお母あ様に、「ベルリンではこん・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・こで廊下から西洋風の戸口を通って書斎へはいると、そこは板の間で、もとは西洋風の家具が置いてあったのかもしれぬが、漱石は椅子とか卓子とか書き物机とかのような西洋家具を置かず、中央よりやや西寄りのところに絨毯を敷いて、そこに小さい紫檀の机を据え・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫