・・・ 数年前物故した細川風谷の親父の統計院幹事の細川広世が死んだ時、九段の坂上で偶然その葬列に邂逅わした。その頃はマダ合乗俥というものがあったが、沼南は夫人と共に一つ俥に同乗して葬列に加わっていた。一体合乗俥というはその頃の川柳や都々逸の無・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・十一頁にわたり、支店や直営店がいかに巧妙に全快写真を探しあつめたかを、御丁寧に統計まであげて、素っ破ぬいている。 なお、同書百七十六頁から百七十九頁までには、全快写真の主が日ならずして、死んだとか、とくに死んでいる筈の病人が、どういう手・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 吉田は平常よく思い出すある統計の数字があった。それは肺結核で死んだ人間の百分率で、その統計によると肺結核で死んだ人間百人についてそのうちの九十人以上は極貧者、上流階級の人間はそのうちの一人にはまだ足りないという統計であった。勿論こ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・わたくしは、いま手もとに統計をもたないけれど、病死以外の不慮の横死のみでも、年々幾万にのぼるか知れないのである。 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、まだ幾万年しかへていない人間社会にあって・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・死する、工場の器機に捲込れて死ぬる、鉱坑の瓦斯で窒息して死ぬる、私慾の為めに謀殺される、窮迫の為めに自殺する、今の人間の命の火は、油の尽きて滅するのでなくて、皆な烈風に吹消さるるのである、私は今手許に統計を有たないけれど、病死以外の不慮の横・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・リアルに、統計的に、とにかく、あなたの原稿、もういちど、読んでみて下さい。そうして、考えて下さい。 ――ぼく、もとから、へたな作家なんだ。くやし泣きに、泣いて書くより他に、てを知らなかった。 ――失恋自殺は、どうなりました。 ―・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ リアルの最後のたのみの綱は、記録と、統計と、しかも、科学的なる臨床的、解剖学的、それ等である。けれども、いま、記録も統計も、すでに官僚的なる一技術に成り失せ、科学、医学は、すでに婦人雑誌ふうの常識に堕し、小市民は、何々開業医のえら・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・しかしコリントゲームの方には公算的統計的の要素が入り込む。前者では因果の連鎖が一筋の糸でつづいているが、後者では因果の中間に蓋然の霧がかかっている。それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思いのままにあらゆる有様を再現することが出来・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・もっとも、統計で見ると内国産棉実千トン弱とあるから、まだどこかで作っているところもあると見えるが、輸入数十万トンに対すればまず無いも同様であろう。 花時が終わって「もも」が実ってやがてそのさくが開裂した純白な綿の団塊を吐く、うすら寒い秋・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ もし出来るならば、多数の歌人が銘々に口調のいいと思う歌を百首くらいずつも選んで、それらの材料を一纏めにして統計的に前述の波数や波長の分配を調べてみたら何かしら多少ものになるような結果が得られはしないかと考えるのである。 このような・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
出典:青空文庫