・・・条理ある社会関係の総体の見とおしを許さず、きれぎれの認識で混乱させた力こそ、ファシズムの本質ではなかったろうか。 記録文学の流行は、出版界の不安定性とまじり合って、各出版社を記録文学のヒットさがしに熱中させた。花山信勝の「平和の発見」は・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ ついこの間の晩、縁側のところで、私は妙な一匹の這う虫を見つけた、一寸五分ばかりの長さで、細い節だらけの体で、総体茶色だ。尻尾の部分になる最後の一節だけ、艷のある甲羅のようなもので覆われている。一寸見ると、そして、這ってゆく方角を念頭に・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・今日、勤労する人間の生活はまだどんなに部分的にしか文学の現実としてとらえられ得ない事情に置かれているかという感慨、並に、それであるからこそ作家は一層まめに、一層着実に、やがてこの総体の為の各部分を現在においてとりあげて行かなければならないと・・・ 宮本百合子 「鼓舞さるべき仕事」
・・・ ヨーロッパ大戦後の文学を支配していた心理分析、潜在意識の生活を追究する唯心的な文学は、一九二九年のヨーロッパの大恐慌とその社会事情の変化によって別な人間生活の総体において表現しようと欲する文学運動に道を拓いた。一九三〇年頃からアメリカ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 世界文学は、総体として、この方向にうつりつつある。その過渡期であるこんにち、第二次大戦後の新しい不安と苦悩、勇気と怯懦とが、混合して噴出している。おそらくは、「二十五時」などの中にも。そして、われわれ日本の読者の悲劇は、ヨーロッパ現代・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・女中部屋六七畳。総体で幾坪になりますか。出来るなら、簡素なハーフ・ティンバーの平屋にし、冬は家中を暖める丈の、暖房装置が欲しゅうございます。 道路と庭との境は、低い常盤木の生垣とし、芝生の、こんもり樹木の繁った小径を、やや奥に引込んだ住・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ その国の進歩的な婦人作家たちが、その文筆活動の総体の何割を、文学以前の生活的な諸問題の究明のために費さなければならないかということで、凡そその国の社会情勢が推しはかれると思う。そして、その必要がどのような自由さで満され得ているかという・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・これらのことをふくめて総体に見れば、老大家たちの作品の多くは、その社会的文学的効果において、文学を前進せしめ、新たな深みをあたえる意義は持たなかったのである。 正宗白鳥は自然主義時代からの作家として今日も評論に小説に活動して一種の大御所・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 個々の作家についてみればそれぞれ異った作風、デカダンスの解釈とエロティシズムへの態度があるけれども、総体としてみて、今日、新しい人間性の確立がいわれている中で、デカダンス、エロティシズムの文学が流行していることについては注目の必要があ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・一時的にせよこの状態が民主主義文学運動を総体的に前進させることをおくらした。狂わせた。「無意識にもせよ、素朴で生活的な勤労者的なもの」への注目を乱した。この一種の混乱が、第三回大会で、運動としての統一的活動の必要について自己批判を生み、一方・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫