・・・ 鶴は、総毛立つ思いである。「ただ、来いとだけ言ったのか。他には、何も?」 既にはね起きてズボンをはいている。「うん、何でも急用らしい。すぐ行って来たほうがいい。」「行って来る。」 何が何だか、鶴にはわけがわからなく・・・ 太宰治 「犯人」
・・・ひょっとしたら、この吹出物も――と考え、一時に総毛立つ思いで、あの人の優しさ、自信の無さも、そんなところから起って来ているのではないのかしら、まさか。私は、そのときはじめて、可笑しなことでございますが、そのときはじめて、あの人にとっては、私・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・何しろ、何を言われても総毛立つというのだから、私としては自分の食べるチーズでも分けて送ってやるしか手がありませんでした。まあ本当によかったわ。この人も泰子も成長の一段階毎にヒキツケてゆかねばならない質です。精神はいつもそういうものですが、こ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫