・・・「にじはなみだち きらめきは織る ひかりのおかの このさびしさ。 こおりのそこの めくらのさかな ひかりのおかの このさびしさ。 たそがれぐもの さすらいの鳥 ひかりのおかの ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・糸を紡ぐこと、織ること、そしてそれを体にまとえるように加工することは非常に古い時代から女のやることであった。これはギリシア神話の中のアナキネという話の物語にでも推察される。アナキネは大変美しく可愛い娘で、織物を織ることが上手であった。みごと・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・そこで、婦人たちは、先より上手に絨毯を織るように、編物をするようになったばかりではない。生産が社会主義的にやられれば、勤労者に得だという事実を学んだのだ。 一九二六年に、ソヴェト同盟内の各民族の男女がどの割合で読書きを知っていたか。これ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 自分がものを覚えるようになった日から続いていた幻の王国の領地で、或るときは杉の古木となり、或るときは小川となり、目に見えぬ綾の紅糸で、露にきせる寛衣を織る自由さえ持っていた自分は、今こうやって、悲しく辛い思いを独りでがまんして坐ってい・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・そして娘さんの世界には、糸をひくこと、染ること、綿を織ること、それが女一人前の資格の一つとして立ちかえって来るのだろうか。昼間は機械工として近代の工業に参加する娘さんの、夜なべの仕事は綿紡ぎになるのだろうか。 牧歌的な懐古の趣ばかりがこ・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
・・・絨緞を織る工場の女工なんぞが通り掛かって、あの人達は木の下で何をしているのだろうと云って、驚いて見ていました。」 暑い夏も過ぎた。秀麿はお母あ様に、「ベルリンではこんな日にどうしているの」と問われて、暫く頭を傾けていたが、とうとう笑いな・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・所が、もう年が押し詰まって十二月二十八日となって、きのうの大雪の跡の道を、江戸城へ往反する、歳暮拝賀の大小名諸役人織るが如き最中に、宮重の隠居所にいる婆あさんが、今お城から下がったばかりの、邸の主人松平左七郎に広間へ呼び出されて、将軍徳川家・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫