・・・ そこへ舞台には一方から、署長とその部下とが駈けつけて来た。が、偽目くらと挌闘中、ピストルの弾丸に中った巡査は、もう昏々と倒れていた。署長はすぐに活を入れた。その間に部下はいち早く、ピストル強盗の縄尻を捉えた。その後は署長と巡査との、旧・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・なお宮城動物園主は狼の銃殺を不当とし、小田原署長を相手どった告訴を起すといきまいている。等、等、等。五 ある秋の真夜中です。体も心も疲れ切った白は主人の家へ帰って来ました。勿論お嬢さんや坊ちゃんはとうに床へはいっています。い・・・ 芥川竜之介 「白」
ある機会で、予は下に掲げる二つの手紙を手に入れた。一つは本年二月中旬、もう一つは三月上旬、――警察署長の許へ、郵税先払いで送られたものである。それをここへ掲げる理由は、手紙自身が説明するであろう。 第一の手・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・彼はムカムカして署長に云ってやった。「便所がなくなッて、おいら、どこへ糞たれるんだ!」「見ッともないじゃないか! もっと隅ッこの人目につかんところへ建てるとか、お屋敷からまる見えだし、景色を損じて仕様がない!」「チッ! くそッ!」・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・ 今だから、こんな話も公開できるのですが、当時はそれこそ極秘の事件で、この町でこの事件に就いて多少でも知っていたのは、ここの警察署長とそれから、この私と、もうそれくらいのものでした。 ことしのお正月は、日本全国どこでもそのようで・・・ 太宰治 「嘘」
・・・「明日でもいいでしょう、と云ったんだが、どうしても直ぐにって署長の命令だからね、済まないが、直ぐに来て貰いたいんだ。直ぐに帰すからね」 中村は、こう云うと、又煽ぎ立てた。「何しろ夜中じゃしようがないよ。子供を手離せないもんだ・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・ ある夏、この町の警察へ、新らしい署長さんが来ました。 この人は、どこか河獺に似ていました。赤ひげがぴんとはねて、歯はみんな銀の入歯でした。署長さんは立派な金モールのついた、長い赤いマントを着て、毎日ていねいに町をみまわりました。・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・そしたらある日署長のとこへ差出人の名の書いてない変な手紙が行ったんです。署長が見たら今のことでしょう、けれども署長は笑ってました。なぜって巡査なんてものは実際月給も僅かですしね、くらしに困るものなんです。」「なるほどねえ、そりゃそうだねえ。・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・それに就ては署長に充分諒解を得てあります。警察では、わたくしに何の嫌疑もかけていない筈です。」「それならなぜ旅行届を出したりして遁げたのです。」 デストゥパーゴはやっと落ち着きました。「いや、おはいりください。詳しくお話しましょ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・事件当夜、立川市の警察署長は立川国警から電話をうけて、八時半頃三鷹附近で事件がおきるから注意して警戒にあたれと、命令をうけたと二十七日『アカハタ』記者に語っています。電話をかけた立川国警署長は、「同様な意味の電話が国警本部から八時半頃あった・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫