・・・私の両側に立っている二人の美男子に、見覚えがあるでしょう? そうです、映画俳優です。Yと、Tです。それから、前にしゃがんでいる二人の婦人にも、見覚えがあるでしょう? そうです、女優のKとSです。おどろいたでしょう。これはね、私が大学へはいっ・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・国、否全世界が救われるであろうと、大見得を切って、救われないのは汝等がわが言に従わないからだとうそぶき、そうして一人のおいらんに、振られて振られて振られとおして、やけになって公娼廃止を叫び、憤然として美男の同志を殴り、あばれて、うるさがられ・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・それはね、僕が美男子であるという理由からに違いない。」 みんな大笑いしました。「いや、冗談じゃない。君たちには気がつかなかったかね。僕は、真直を見て歩いていても、あの薄暗い隅に寝そべっている浮浪者の殆ど全部が、端正な顔立をした美男子・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・乙彦は、荒んだ皮膚をして、そうして顔が、どこか畸形の感じで、決して高須のような美男ではなかった。けれども、いま、このバアの薄暗闇で、ふと見ると、やはり、似ている。数枝には、血のつながりというものが、ひどく、いやらしく、気味わるいものに思われ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・まるまると白く太った美男の、肩を力一杯ゆすってやって、なまけもの! と罵った。眼のさめて在る限り、枕頭の商法の教科書を百人一首を読むような、あんなふしをつけて大声で読みわめきつづけている一受験狂に、勉強やめよ、試験全廃だ、と教えてやったら、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・けだし、僕たちの策戦たるや、かの吉良邸の絵図面を盗まんとして四十七士中の第一の美男たる岡野金右衛門が、色仕掛の苦肉の策を用いて成功したという故智にならい、美男と自称する君にその岡野の役を押しつけ、かの菊屋一家を迷わせて、そのドサクサにまぎれ・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・兄さんは、あんな妙ちきりんな顔をしていて、それでもご自身では少しは美男子だと思っているのかしら。呆れたひとです。本当にお嫂さんはいま、おなかの赤ちゃんのために、この世で一ばん美しいものばかり眺めていたいと思っていらっしゃるのだ、きょうのこの・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
私の顔は、このごろまた、ひとまわり大きくなったようである。もとから、小さい顔ではなかったが、このごろまた、ひとまわり大きくなった。美男子というものは、顔が小さくきちんとまとまっているものである。顔の非常に大きい美男子という・・・ 太宰治 「容貌」
・・・ふらりふらり歩きながら太郎は美男というものの不思議を考えた。むかしむかしのよい男が、どうしていまでは間抜けているのだろう。そんな筈はないのじゃがのう。これはこれでよいのじゃないか。けれどもこのなぞなぞはむずかしく、隣村の森を通り抜けても御城・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・画にあるような美男子である。人を眩するような、生々とした気力を持っている。馬鹿ではない。ただ話し振りなどがひどくじだらくである。何をするにも、努力とか勉強とか云うことをしたことがない。そのくせ人に取り入ろうと思うと、きっと取り入る。決して失・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫