・・・を唱いながら皇帝へ哀訴にやって来た。群衆の中には無数の女子供があった。彼らがひざまずいて祈りはじめ哀号しはじめると、皇帝ニコライは慈愛深い父たる挨拶として無警告の一斉射撃を命じた。灰色の官給長外套を着たプロレタリアートの子が命令の意味を理解・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・呼びかけの声はちょうど往来を私どもが歩いているとき頭の上できこえるラジオのラウド・スピーカアの声となって空に響いてはいるけれど、それに交る電車の音、群衆の跫音もあって、何となし心にずーっとしみこんで来ない。語られていることにも種々様々の疑問・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・どっと群衆が笑い、ニーナも笑いだしたが、いつか本当にみんなが詰めてくれて、やっとニーナは安全に電車にのれた。 工場へ曲る角に新聞雑誌の屋台店がある。ニーナは昼休みに仲間によんできかせてやるため、毎朝そこで『プラウダ』を買って行く習慣・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・では、その扱いの失敗の典型を見せられたが、ソヴェトのオペラで感服した一つのことはオペラ舞台では、演劇的に群衆が集団の力の表現として生かされていたということだ。 これはスカラ座のカルメンの舞台群衆と比べると直ぐわかる。「ゴトブ」も、こ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・教えられたとおりに行くと、通りは次第に群衆でつまってきた。みんな一種緊張した何かを期待しているような目付で数人ずつ連れだち、ゾロゾロ歩いているが、どこにも組織されたデモンストレーションの列は見当らない。広場に近づくにつれ、意外のものがめにと・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・有象無象の大群衆を生かすか殺すか彼一人の頭にかかっている。これは眼前の事実であろうか、夢であろうか。とにかく、事はあまりに重大すぎて想像に伴なう実感が梶には起らなかった。「しかし、君がそうして自由に外出できるところを見ると、まだ看視はそ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・巨石運搬の場合には大綱に取りついた無数の群衆と、その群衆の力を一つにまとめる指導者とが必要である。絵で見ると巨石の上には扇をかざした人が踊っている。というのは、全身を指揮棒に代えて群衆の呼吸を合わせているのである。京都の祇園祭りの鋒の山車の・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫