・・・ 鳥や鼠や猫の死骸が、道ばたや縁の下にころがっていると、またたく間に蛆が繁殖して腐肉の最後の一片まできれいにしゃぶりつくして白骨と羽毛のみを残す。このような「市井の清潔係」としての蛆の功労は古くから知られていた。 戦場で負傷したきず・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・ 鳥やねずみや猫の死骸が道ばたや縁の下にころがっているとまたたく間にうじが繁殖して腐肉の最後の一片まできれいにしゃぶり尽くして白骨と羽毛のみを残す。このような「市井の清潔係」としてのうじの功労は古くから知られていた。 戦場で負傷した・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・駝鳥の卵や羽毛、羽扇、藁細工のかご、貝や珊瑚の首飾り、かもしかの角、鱶の顎骨などで、いずれも相当に高い値段である。 船のまわりをかなり大きな鱶が一匹泳いでいる。その腹の下を小さい魚が二尾お供のようについて泳いでいる。あれがパイロットフィ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・冬の酷寒には水滴の代わりに美しい羽毛状の氷の結晶模様ができる。おもしろいことには、水滴が付着する場合に、一枚一枚のガラスの上のほうと下のほうとで、水滴の大きさや並び方に一定の統計的な相違があることである。これは温度の相違によるか、それともガ・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・あれも天然の設計に成る鳥獣の羽毛の機構を学んで得たインジェニュイティーであろうと想像される。それが今日ではほとんど博物館的存在になってしまった。 日本の家屋が木造を主として発達した第一の理由はもちろん至るところに繁茂した良材の得やすいた・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・人は生活を赤裸々にして羽毛蒲団の暖さと敷布の真白きが中に疲れたる肉を活気付けまた安息させねばならぬ。恋愛と睡眠の時間。われわれが生存の最も楽しい時間を知るのは寝床である。寝床は神聖だ。地上の最も楽しく最も好いものとして敬い尊び愛さねばな・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・そして彼らの上官たちは、頭に羽毛のついた帽子を被り、陣営の中で阿片を吸っていた。永遠に、怠惰に、眠たげに北方の馬市場を夢の中で漂泊いながら。 原田重吉が、ふいに夢の中へ跳び込んで来た。それで彼らのヴィジョンが破れ、悠々たる無限の時間が、・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ 艷やかな羽毛の紅色は褪せず、嘴さえルビーを刻んだようなので、内部の故障とは思い難い。丁度前の晩が霜でも下りそうに冷えたので、きっとその寒さに当たったのだろうと、夫は云う。 彼は、他のものまで凍えさせては大変だと云う風で、一も二もな・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・白駝鳥の飾羽毛つきの帽。飽くまで英国――一九〇〇年代――中流人だ。識ろうとする欲求によってではなく、社交上の情勢によって、顔役として坐っていた。○アングロサクソン人の、ロシア及ドイツに対する無智な偏見。○イギリスとアメリカの短篇小説・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
・・・私は何故魚屋に烏の肉などがあるのか、烏らしい羽毛も見えないが、成程、黒いには黒い、真黒だ。と考えながら段々歩いて行く。 いつの間にか私のとなりにつれ立って良人も歩いている。感じで判っているが姿も声もしない。砂ばかりの海岸近くの処に出た。・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
出典:青空文庫