・・・ 小刻みに上下に揺れ揺れ流れ動く人波の上に、此処からでも、婦人帽の白い羽毛飾が見えた。黒繻子の頂や縁も。 然しそれは、鋪道一体の流れに沿うて前か後に進みきる様子はなく、距離にしたら五六間もない空間で、前後左右に漂っている。 渦に・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・時々羽毛の触る微かなカサカサいう音がするだけで、雌は終に彼の傍に戻って来なかった。 黎明が鳩の目を明るくした。雄鳩は大きな悲しみを見出し、鳴きながら脚を高くあげその辺を歩き廻った。夜のうちに雌は死んだ。 雄鳩は雌の死んだこと・・・ 宮本百合子 「白い翼」
・・・ 石川は、無人島でアメリカへ売り込む鳥の羽毛を叩き落すのをやめてから、或る請負師の下に使われるようになった。その親方は手広く商売をし、信託会社にも関係があった。今××町の中にある凝った建築の邸宅で、その請負師の仕事が大分ある。あらかた建・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・公園のペリカンは瘠せて頸の廻りの羽毛が赤むけになっていた。 ベンチのぐるりと並んだ花壇を抜け、彼等は常緑樹の繁った小径へ入った。どこまでも黙って歩いた。やがて竹藪の間へ来かかった。「みのえちゃん」 彼を見上げた口の上へ油井はキス・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・ その絵から私は強い印象を受け、こうやって書いていても、黝んだ蓮の折れ葉の下に戦ぐ鷺の頸の白い羽毛を感じる。――その絵の中に一本の蓼がある。蓮の中から高く空中に花を咲かせている。不思議な奥深い寂寞の感じは、動かぬその蓼の房花によって・・・ 宮本百合子 「蓮花図」
出典:青空文庫