・・・文人は最早非常なる精力を捧ぐる著述に頼らなくても習作的原稿、断片的文章に由て生活し得るようになった。文人は最早新聞社の薄い待遇にヒシ/\と縛られずとも自由に楽んでパンを得る事が出来るようになった。 斯うなると文人は袋物屋さんや下駄屋さん・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・いつでも次郎が私のところへ習作を持って来て見せるのは弟のいない時で、三郎がまた見せに来るのは兄のいない時だった。「どうも光っていけない。」 と言いながら、その時次郎は私の四畳半の壁のそばにたてかけた画を本棚の前に置き替えて見せた。兄・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・次郎も兄の農家を助けながら描いたという幾枚かの習作の油絵を提げて出て来たが、元気も相変わらずだ。亡くなった本郷の甥とは同い年齢にも当たるし、それに幼い時分の遊び友だちでもあったので、その告別式には次郎が出かけて行くことになった。「若くて・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・この人の習作や沢山の未成の絵を並べて、そして一夜漬けの模造品を雑作もなく塗り上げる人達に見せるのもいいかと思う。 ジョコンダの絵と、ルウベンスの模写が出ている。模写の出来る絵と出来ない絵とがあるとすれば、この二つはその代表者だと思う。ジ・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・の俳諧を試みて、そうしてあまり成効しなかった一つの習作とも見らるるものである。 しかしなんと言っても俳諧は日本の特産物である。それはわれわれの国土自身われわれの生活自身が俳諧だからである。ひとたび世界を旅行して日本へ帰って来てそうして汽・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
作者が添えた手紙でことわっている通り、まだ稚い作品ではあるけれどもリアリスティックな文学の筋の上に立っている。習作ではあるが『大衆クラブ』などにのせれば同感をもってよむひとは少くないだろうと思った。 作者の心持が稚くて・・・ 宮本百合子 「稚いが地味でよい」
・・・と印刷費用とは高騰する一方であるから、一時のように同人雑誌の刊行も困難になり、他面発表機関も困難になることから、雑誌を持っていてその誌上を割き与えることの出来る作家の周囲には今後も益々文学志望者がその習作と共に蝟集するであろうと思う。それら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・一葉の一生は短かったから、かくされた傑作があるとは考えられないけれども、習作は習作なりに、一葉とその時代とが、文学勉強をどういうものとして考えていたかということからの面白さもある。習作が文章をねるという面からあらわれているか、それとも、或る・・・ 宮本百合子 「人生の風情」
・・・彼等の製作は、どれだけ我々の眼の前に出て来ない沢山の習作の中から抜粋して映画にされたか分らない。だから隠れた時間と労力が沢山ある。そのことについて今問題がある。キノはもう少し早く製作することを習得しなくてはいけないということをいわれている。・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 若い婦人たちが幾人か習作をだしていたことも注意をひかれました。朱葉会ともちがった絵がここから出ることが期待されます。 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
出典:青空文庫