・・・こちらの考え方一つでは、鳥とでも、獣とでも、乃至は蛇や蛙とでも、思って思えない事はないのです。それも顔と云うよりは、むしろその一部分で、殊に眼から鼻のあたりが、まるで新蔵の肩越しにそっとコップの中を覗いたかのごとく、電燈の光を遮って、ありあ・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ マルクスの主張が詮じつめるとここにありとすれば、私が彼のこの点の主張に同意するのは不思議のないことであって、私の自己衝動の考え方となんら矛盾するものではない。生活から環境に働きかけていく場合、すべての人は意識的であると、無意識的である・・・ 有島武郎 「想片」
・・・凡そその程度のものであるから、もとより享楽すべきものであって、これによって、旧文化の根底を改めて新文化をば建設しようなどゝ考えるのは、あまりに安価な考え方であると思われます。 独りドストイフスキイの作品ばかりでなく他の有名なる名作は、事・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・その文体が、そこにあらわれた趣味、考え方が、どうしても、ぴたりと心に合致しないのです。私は、書物は独立した一個の存在であると信じています。そこには、著者の個性があり、また感情があります。従って、これを好むと好まざるとは、互の素質に因らなけれ・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・しかし、日本の文学の考え方は可能性よりも、まず限界の中での深さということを尊び、権威への服従を誠実と考え、一行の嘘も眼の中にはいった煤のように思い、すべてお茶漬趣味である。そしてこの考え方がオルソドックスとしての権威を持っていることに、私は・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・平凡な人生を平凡な筆で正直にありのままに書くことが、作家として純粋だという考え方は、まるで文学のノスタルジアのように思われているが、自伝というものは、非凡な人間が語ってこそ興味があるので、われわれ凡人がポソポソと語って、何が面白かろう。しか・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ どうせ、文学に対する考え方なぞ、人生に対する考え方とおんなじで、十人十色であり誰の作品にしろ、作者が意気ごんで待ち構えているほどには、いいかえれば、作者が満足する程度に、理解されることなぞ、まかりまちがっても有り得ないのであるから、な・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・ ――無気力な彼の考え方としては、結局またこんな処へ落ちて来るということは寧ろ自然なことであらねばならなかった。(魔法使いの婆さんがあって、婆さんは方々からいろ/\な種類の悪魔を生捕って来ては、魔法で以て悪魔の通力を奪って了う。そして自・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・……どうも兄さんの考え方は」と弟は非難と冷笑の色を見せたが、言葉は続けなかった。「それでは大急ぎで仕事を片づけて三日中に出て行くからね。……おやじには出てきてくれたんでたいへん安心して悦んでいると言ってくれ」私はこう言って弟だけ帰したが・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・「しかし笹川もこうしたしっぺ返しというもので、それがどんな無能な人間であったとしても、そのために亡びるだろうというような考え方は、僕は笹川のために取らない」と、私は笹川への憤慨を土井に言わずにはいられなかった。「しかしまあそう憤慨したと・・・ 葛西善蔵 「遁走」
出典:青空文庫