・・・ 自分がいればいるほど、大混雑になる家から逃れるようにして、彼は出来るだけ野良にばかり出ていた。 けれども、別にそう大して働かなければならないほどの仕事もない。 耕地の端れの柏の古木の蔭に横たわりながら、彼は様々な思いに耽ったの・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
桑野村にて ○日はうららかに輝いて居る。けれども、南風が激しく吹くので、耕地のかなたから、大波のように、樹木の頭がうねり渡った。何処かで障子のやぶれがビュー、ビュービューと、高く低くリズムをつけて鳴って居る・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・まだ見たこともない男の妻となり、その一家に新しく加った一人の無償労働者として耕地を這ずりまわらなければならなかった。「十月」はロシアのあらゆる場所でいためつけられていた勤労婦人を実質的に解放した。労働者農民・働く全人民の解放のためのたた・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・食糧では、人口と耕地面積比率においてソヴェトが安定しているのは、自然であろう。近代戦争の決定的要素は鋼鉄、石油、輸送力である。この数字を見て、日本のわたしたちは、ソヴェトが戦争をけしかけているというファシストの宣伝が事実上の根拠をもっていな・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ 農奴解放、それに引続く資本主義の発達に伴い、この時代ロシアには偽瞞的な自由を獲得した稍々富める農奴から転じた無学な小市民層と、主人と住家耕地を失って都会、工業地帯に移行する農奴出身の労働者層とが急速に増大した。当時からロシアの主要工業・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・碧く、高く、晴れ晴れと、まるで空に浮いて居る雲を追って起伏して居るような山々の下に、重い愁わしげに金色の耕地が続いて居る。その中で、汗みどろに成った男や女が鎌を振い、火を燃して彼等の収穫にいそしんで居る。景色は美くしい。青玉のような果が鈴な・・・ 宮本百合子 「麦畑」
・・・とりのこされた綿の実が、白く見える耕地からゆるやかな起伏をもって延びて居る、色彩の多い遠景、近くに見ると、色絨壇のような樹々の色も、遠くなるにつれて、混合した、一種の雑色となって、澄んだ空の下に横わって居る。 赤や茶や黄や、緑や、其等の・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・ そんなに貧寒であった開墾地の村々も次第に耕地が肥え、田畑の収穫もましになって、三つ並んで街道の傍にあった池の一つは郡山の町の貯水池となったり、一番池のそばにはいくつかの工場が建ったりして、日露戦争を経、欧州大戦の余波の経済パニックも経・・・ 宮本百合子 「村の三代」
出典:青空文庫