・・・ これはその葉書の隅に肉筆で書いてある文句だった。僕はこう云う文句を読み、何冊かの本が焔になって立ち昇る有様を想像した。勿論それ等の本の中にはいつか僕が彼に貸したジァン・クリストフの第一巻もまじっているのに違いなかった。この事実は当時の・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・と云う小論文を書けと云うものだった。なぜ彼等は特に僕にこう云う小論文を書かせるのであろう? のみならずこの英語の手紙は「我々は丁度日本画のように黒と白の外に色彩のない女の肖像画でも満足である」と云う肉筆のP・Sを加えていた。僕はこう云う一行・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 国定教科書の肉筆めいた楷書の活字。またなんという画家の手に成ったものか、角のないその字体と感じのまるで似た、子供といえば円顔の優等生のような顔をしているといったふうの、挿画のこと。「何とか権所有」それをゴンショユウと、人の前では読・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・こんな事を考えてみるだけでもそこにいろいろなまじめな興味ある問題を示唆されるのであるが、その示唆の呪法の霊験がこの肉筆の草稿からわれわれの受けるなまなましい実感によっていっそう著しく強められるであろうと思われるのである。・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
出典:青空文庫