-
・・・ 寒くなると、爺さんは下駄棚のかげになった狭い通路の壁際で股火をしながら居睡をしているので、外からも、内からも、殆ど人の目につかない事さえあった。 或年花の咲く頃であったろう。わたくしは爺さんが何処から持って来たものか、そぎ竹を丹念・・・
永井荷風
「草紅葉」
-
・・・ チョンチョンと下足札を鳴らすが、小屋は満員で、騒然としていて、顔役は、まがい猟虎の襟付外套で股火をし、南京豆の殼が処嫌わず散らかっているだけだ。山塞の頭になった役者が粗末な舞台で、「ええ、きりきりあゆめえ!」と声を搾って大見得・・・
宮本百合子
「山峡新春」