・・・これが大事な胚子となって、あのすばらしい世界革命がひき起こされたのだ。この場合ブルジョアジーの人々が、どれだけ民衆のために貢献したかは、想像も及ばないものがある。悔い改めたブルジョアは、そのままプロレタリアの人になることができるのだ。そう、・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ガス分子論の胚子はルクレチウスの夢みた所である。ニュートンの微粒子説は倒れたが、これに代るべき微粒子輻射は近代に生れ出た。破天荒と考えられる素量説のごときも二十世紀の特産物ではないようである。エピナスの古い考えはケルビン、タムソンの原子説を・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ 人間その他多くの動物の胚子は始めは球形である。そうして、その一方が凹入して壺形になるのが発生の第一階段である。粘土のかたまりから壺にできて行くのは外見上いくらかこれと似た過程であるが、しかし生物の胚子の場合に陶工の手の役目をつとめるも・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・そういう時に彼の頭には色々の独創的な考えの胚子が浮んで来るのらしい。彼はそういう考えを書き止めておいては、それを丁寧に保存し整理しては追究して行くそうである。いかにもこの人にふさわしいやり方だと思う。過去の仕事のカタログを製したりするよりは・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・を築いて花を供えたりして、そういう場合におとなの味わう機微な感情の胚子に類したものを味わっているらしく見える。子供が虫をつかまえたり、いじめたり殺したりするのは、やはりいわゆる種属的記憶と称するものの一つでもあろうか。このような記憶あるいは・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・それを握んで明るみへ引出して展開させるとそこからまた次に来る世界の胚子が生れる。 それをするにはやはり前句に対する同情がなければ出来ない。どんな句にでも、云い換えるとどんな「人間」にでも同情し得るだけの心の広さがなくてはいい俳諧は出来な・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・少なくも晩年の作品の中に現われている色々のものの胚子がこの短い詩形の中に多分に含まれている事だけは確実である。 俳句とは如何なるものかという問に対して先生の云った言葉のうちに、俳句はレトリックのエッセンスであるという意味の事を云われた事・・・ 寺田寅彦 「夏目先生の俳句と漢詩」
・・・の内部に親と子の生命の連鎖をつかもうとして骨を折っている。物理学者や化学者は物質を磨り砕いて原子の内部に運転する電子の系統を探っている。そうして同一物質の原子の中にある或る「個性」の胚子を認めんとしているものもある。化学的の分析と合成は次第・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・書くならばできるだけほんとうの径路を科学的に書く事によってすべての人の頭の奥に潜む罪の胚子に警告を与えるようなものにしたい。しかしそういう例外な事件の記事よりも、日常街頭や家庭に起こりつつある、一見平凡でそうして多数の人が軽々に看過していて・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・の観念の胚子、「力の場」「指力線」などの考えの萌芽らしいものも見られる。しかし全体としての説明は不幸にして今の言葉には容易に書き直されないものである。 終わりには「病気」に関する一節があって、そこには風土病と気候の関係が論ぜられ、また伝・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫