・・・ 雪を振り落してから、一本腕はぼろぼろになった上着と、だぶだぶして体に合わない胴着との控鈕をはずした。その下には襦袢の代りに、よごれたトリコオのジャケツを着込んでいる。控鈕をはずしてから、一本腕は今一本の腕を露した。この男は自分の目的を・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・田舎の純百姓で針の運べる女は上等で大方は少しまとまったものは縫えず、手は持って居ても畑に出て時がないので、そこに気の附いた町の呉服屋では襦袢から帯から胴着まで仕立てあげたのを吊して売って居る。この婆さんは呉服屋の仕立物をうけおい、その呉服屋・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫