・・・その袖口からどうかすると脇の下まで見え透きそうになるのを、頻と気にして絶えず片手でメレンスの襦袢の袖口を押えている。車はゆるやかな坂道をば静かに心地よく馳せ下りて行く。突然足を踏まれた先刻の職人が鼾声をかき出す。誰れかが『報知新聞』の雑報を・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・肩から四角な箱を腋の下へ釣るしている。浅黄の股引を穿いて、浅黄の袖無しを着ている。足袋だけが黄色い。何だか皮で作った足袋のように見えた。 爺さんが真直に柳の下まで来た。柳の下に子供が三四人いた。爺さんは笑いながら腰から浅黄の手拭を出した・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・白き上衣の、腋の下早や黄ばみたるを着たる人も、新しき浴衣着たる人よりは崇ばるるを見ぬ。 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫