・・・数馬と多門とは同門のうちでも、ちょうど腕前の伯仲した相弟子だったのでございまする。」 治修はしばらく黙ったなり、何か考えているらしかった。が、急に気を変えたように、今度は三右衛門の数馬を殺した当夜のことへ問を移した。「数馬は確かに馬・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・「ははは、勝手に道楽で忙しいんでしてな、つい暇でもございまするしね、怠け仕事に板前で庖丁の腕前を見せていた所でしてねえ。ええ、織さん、この二、三日は浜で鰯がとれますよ。」と縁へはみ出るくらい端近に坐ると一緒に、其処にあった塵を拾って、ト・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・僕はこう答えたが、心では、「芸者どころか、女郎や地獄の腕前もない奴だ」と、卑しんでいた。「あたいばかり責めたッて、しようがないだろうじゃないか?」吉弥はそのまなじりをつるしあげた。それに、時々、かの女の口が歪む工合は、お袋さながらだと見・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・わたくしはこれまで武器というものを手にした事がありませんから、あなたのお腕前がどれだけあろうとも、拳銃射撃は、わたくしよりあなたの方がお上手だと信じます。 そこでわたくしはあなたに要求します。それは明日午前十時に、下に書き記してある停車・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・から、あれでもなし、これでもなしと柳吉の興味を持ちそうな商売を考えた末、結局焼芋屋でもやるより外には……と困っているうちに、ふと関東煮屋が良いと思いつき、柳吉に言うと、「そ、そ、そらええ考えや、わいが腕前ふるってええ味のもんを食わしたる」ひ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・じっさい、あれほどの腕前を、他のまともな方面に用いたら、大臣にでも、博士にでも、なんにでもなれますよ。私ども夫婦ばかりでなく、あの人に見込まれて、すってんてんになってこの寒空に泣いている人間が他にもまだまだある様子だ。げんにあの秋ちゃんなど・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・わたくしはこれまで武器と云うものを手にした事がありませんから、あなたのお腕前がどれだけあろうとも、拳銃射撃は、わたくしよりあなたの方がお上手だと信じます。 だから、わたくしはあなたに要求します。それは明日午前十時に、下に書き記してある停・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・「銀座にも、どこにも、あなたほどの腕前のひとは無いってうわさですからね。」 それは、しかし、あながちお世辞でも無かった。事実、すばらしく腕のいい美容師であった。 キヌ子は鏡に向って腰をおろす。 青木さんは、キヌ子に白い肩掛けを当・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・みなさん私のロココ料理をたべて、私の腕前をほめてくれて、私はわびしいやら、腹立たしいやら、泣きたい気持なのだけれど、それでも、努めて、嬉しそうな顔をして見せて、やがて私も御相伴して一緒にごはんを食べたのであるが、今井田さんの奥さんの、しつこ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・家来たちも、わざと負けていたのではなくて、本当に殿様の腕前には、かなわなかったのではあるまいか。庭園の私語も、家来たちの卑劣な負け惜しみに過ぎなかったのではあるまいか。あり得る事だ。僕たちだって、佳い先輩にさんざん自分たちの仕事を罵倒せられ・・・ 太宰治 「水仙」
出典:青空文庫