・・・Aepfel Suchen im Wasser というのは、水おけに浮いているりんごを口でくわえる芸当、Wurst Schnappen は頭上につるした腸詰めへ飛び上がり飛び上がりして食いつく遊戯である。将校が一々号令をかけているのが滑稽の・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・こうした上昇流は決して一様に起こることは不可能で、類似の場合の実験の結果から推すと、蜂窩状あるいはむしろ腸詰め状対流渦の境界線に沿うて起こると考えられる。それで鳥はこの線上に沿うて滑翔していればきわめて楽に浮遊していられる。そうしてはなはだ・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・そして隠しからパンを一切と、腸詰を一塊と、古い薬瓶に入れた葡萄酒とを取出して、晩食をしはじめた。 この時自分のいる所から余り遠くない所に、鈍い、鼾のような声がし出したので、一本腕は頭をその方角に振り向けた。「おや。なんだ。爺いさん。・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・辞儀をする。腸詰やハムなどの皿を出す。若いアメリカ人はそれを一瞥したが、フォークを取り上げようともせず、いきなり体じゅうで大きな大きな、涙の滲み出すように大きな伸びをした。「――ああ、ねぶたいです……」 眠たいのはもう馴れているとで・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・卓子は室の中央へ引出されて、上にパンや、腸詰、イクラを盛った皿が出ていた。底にぽっちり葡萄酒の入っている醤油の一升瓶がじかに傍の畳へ置いてある。ルイコフが、彼のマンドリンと一緒に下げて来たものだ。ルイコフとマリーナはさっき大論判をしたところ・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫