・・・を機会に、行火の箱火鉢の蒲団の下へ、潜込ましたと早合点の膝小僧が、すぽりと気が抜けて、二ツ、ちょこなんと揃って、灯に照れたからである。 橙背広のこの紳士は、通り掛りの一杯機嫌の素見客でも何でもない。冷かし数の子の数には漏れず、格子から降・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ はだかる襟の白さを合すと、合す隙に、しどけない膝小僧の雪を敷く。島田髷も、切れ、はらはらとなって、「堪忍してよう、おほほほほ、あははははは。」 と、手をふるはずみに、鳴子縄に、くいつくばかり、ひしと縋ると、刈田の鳴子が、山に響いて・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ここの海は浅く、飛びこんだところで、膝小僧をぬらすくらいのものであろう。私は、しくじりたくなかった。よしんばしくじっても、そのあと、そ知らぬふりのできるような賢明の方法を択ばなければ。未遂で人に見とがめられ、縄目の恥辱を受けたくなかった。そ・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ツネちゃんは顔をしかめ、しゃがんだまま膝小僧をおさえ、うむと呻いた。おさえた手の指の間から、血が流れ出て来た。僕は空気銃をほうり出し、裏から廻って店の奥にはいり、「ごめんごめん、ごめん。どうした?」 どうしたもこうしたも無い。鉛の弾・・・ 太宰治 「雀」
・・・私の髪はほどけて、ゆかたの裾からは膝小僧さえ出ていました。あさましい姿だと思いました。 おまわりさんは、私を交番の奥の畳を敷いてある狭い部屋に坐らせ、いろいろ私に問いただしました。色が白く、細面の、金縁の眼鏡をかけた、二十七、八のいやら・・・ 太宰治 「燈籠」
・・・ けれども、まさか家内のように悟りすまして眼をつぶっていることもできず、膝小僧だいてしゃがんだまま、きょろきょろあたりを見廻した。二組の家族がいる。一組は、六十くらいの白髪の老爺と、どこか垢抜けした五十くらいの老婆である。品のいい老夫婦・・・ 太宰治 「美少女」
・・・ 一太は食慾のこもった眼を皿の豆に吸いよせられながら、膝小僧を喰つけて小さくその前に坐った。一太は厳しく云いつけられている通り、「御馳走さま」とお礼を云った。母親の頭が唐紙の隙から出た。「おやまた何か戴いたんですか……済みません・・・ 宮本百合子 「一太と母」
出典:青空文庫