白魚、都鳥、火事、喧嘩、さては富士筑波の眺めとともに夕立もまた東都名物の一つなり。 浮世絵に夕立を描けるもの甚多し。いずれも市井の特色を描出して興趣津々たるが中に鍬形くわがたけいさいが祭礼の図に、若衆大勢夕立にあいて花・・・ 永井荷風 「夕立」
・・・この二つの事実を左右の翼として、論理的に一段の交渉を前方に進めるならば、我々は局外者に向って興趣ある一種の結論を提供する事が出来る。その結論とはこうである。―― わが小説界は偉大なる一、二の天才を有する代りに、優劣のしかく懸隔せざる多数・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ 題目の性質としては一気に読み下さないと、思索の縁を時々に切断せられて、理路の曲折、自然の興趣に伴わざるの憾はあるが、新聞の紙面には固より限りのある事だから、不都合を忍んで、これを一二欄ずつ日ごとに分載するつもりである。 この事情の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・暖かき円満なる家庭を有するものは人生に幾分の同情を有し悲哀の興趣を味わい自己を自覚せる人である。多くの富豪や華族は真に「家庭」と呼び得べき者を有せぬ。彼らは経済学の見地に立てば社会の宝玉である。精神的観察よりすれば社会の悪毒である。皮相なる・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫