・・・ 倶楽部の人々は二郎が南洋航行の真意を知らず、たれ一人知らず、ただ倶楽部員の中にてこれを知る者はわれ一人のみ、人々はみな二郎が産業と二郎が猛気とを知るがゆえに、年若き夢想を波濤に託してしばらく悠々の月日をバナナ実る島に送ることぞと思えり・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
こう云う船だった。 北海道から、横浜へ向って航行する時は、金華山の燈台は、どうしたって右舷に見なければならない。 第三金時丸――強そうな名前だ――は、三十分前に、金華山の燈台を右に見て通った。 海は中どころだっ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ニージュニ・ノヴゴロド市の埠頭、嘗てゴーリキーが人足をしたことのある埠頭から、ヴォルガ航行の汽船が出る。母なるヴォルガ河、船唄で世界に知られているこの大河の航行は、実に心地のいい休養だ。ニージュニときくと、恐らく或る者はそう思いもするだろう・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 冬が来て、ヴォルガ河が凍り、汽船の航行がとまると、ゴーリキイは、又製図工のところへ戻って働いた。働きは依然としてひどいものではあったが、彼には本を読むという無限の慰めが出来た。プーシュキン、ディケンズ、スコットなどの小説をゴーリキイは・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・の怒号と高まって来るまで、作者は身についている揚子江航行の知識を十分に発揮して手堅く描いている。作品の構成がもっと立体的であって、いくつかの重大な出来事――アプトンの死。ホフマンの死。萬縣での流血の闘争など、もっと色彩づよく描写され、同時に・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
出典:青空文庫