・・・第二次の実験は隅田川の艇庫前へ持って行ってやったのだが、その時に仲間の一人が、ボイラーをかついで桟橋から水中に墜落する場面もあって、忘れ難い思い出の種になっている。 墜落では一つの思い出がある。三年生の某々二君と、池の水温分布を測った事・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ 鐘ヶ淵の紡績会社や帝国大学の艇庫は自分がまだ隅田川を知らない以前から出来ていたものである。それらの新しい勢力は事実において日に日に土手や畠や河岸や蘆の茂りを取払って行きつつあるが、しかし何らの感化をも自分の心の上には及ぼさなかったのだ・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・ 橋場辺の岸から向岸を見ると、帝国大学のペンキに塗られた艇庫が立っていて、毎年堤の花の咲く頃、学生の競漕が行われて、艇庫の上のみならず、そのあたり一帯が競漕を見にくる人で賑かになる。堤の上に名物言問団子を売る店があり、堤の桜の由来を記し・・・ 永井荷風 「向島」
出典:青空文庫