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・・・娘の帯の、銀の露の秋草に、円髷の帯の、浅葱に染めた色絵の蛍が、飛交って、茄子畑へ綺麗にうつり、すいと消え、ぱっと咲いた。「酔っとるでしゅ、あの笛吹。女どもも二三杯。」と河童が舌打して言った。「よい、よい、遠くなり、近くなり、あの・・・
泉鏡花
「貝の穴に河童の居る事」
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・・・ C先生、 斯うやって物を書いて居る私の窓から瞳を遠く延すと、光る湖面を超えて、対岸の連山と、色絵具で緑に一寸触れたような別荘とが見えます。其等の漠然とした遠景の裡から仄白く光って延びる道路に連れて目を動かすと、村で一番大きな旅舎の・・・
宮本百合子
「C先生への手紙」