・・・黄色い芭蕉布で煤けた紙の上下をたち切った中に、細い字で「赤き実とみてよる鳥や冬椿」とかいてある。小さな青磁の香炉が煙も立てずにひっそりと、紫檀の台にのっているのも冬めかしい。 その前へ毛氈を二枚敷いて、床をかけるかわりにした。鮮やかな緋・・・ 芥川竜之介 「老年」
・・・て二間つづきに作られたのを病院の都合で一つずつに分けたものだから、火鉢などの置いてある副室の方は、普通の壁が隣の境になっているが、寝床の敷いてある六畳の方になると、東側に六尺の袋戸棚があって、その傍が芭蕉布の襖ですぐ隣へ往来ができるようにな・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・ 書院の袋戸棚 四枚の芭蕉布にぼんやり雪舟まがいの山水を書いたもの、ふたところ三ところ小菊模様の更紗でついであって、いずれも三水がくすぶっている。その上に 山静水音高 と書いた横ものがかかげられている。○馬が三頭いた。二頭に・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
出典:青空文庫