・・・ 異性が異性を見る場合に、兎角起り勝ちな、又、殆ど総ての場合に附帯して来る、多大の寛容と、多大の苛酷さが、アメリカの婦人に対しても両方の解決を与えるのだと思います。 まして、現代の日本の男性に表われて居る二つの型――勿論其は至極粗雑・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 中国、朝鮮、日本などのように、封建的な社会の風習と、資本主義社会の苛酷な婦人の労働力に対する搾取とが重なりあっているところでは、特に婦人のすべての重荷と悲運が、婦人問題としてだけでは解決されない。日本の社会そのものが、根本から変ってゆ・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・漱石はこの小説で自己というものを苛酷な三面鏡のうちに照り出そうとした。一郎、二郎、Hさん。漱石の内部には一郎が厳然と日常生活の端ッこまで眼を閃かせ感覚を研いで君臨していたとともに、二郎の面も性格の現実としてはっきり在ったと思える。一郎は或る・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・資本主義社会の生産は、こうして夥しいプロレタリア婦人の労力によって運転されているのだが、資本家の利を守るために行われる産業合理化によって労働時間は九時間以上十一時間、十三時間という驚くべき苛酷さだ。婦人労働者の賃銀は、一九二七年、工場労働者・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・などは傑れた文学上の古典であり、人生の塩のような作品だが、これらの作品の中に描き出されている少年青年としてのゴーリキイの環境は実に苛酷なものであった。その苛酷な野蛮な、周囲の日常生活の流転の姿に痛む若い日のゴーリキイの心が、人間社会のよりひ・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・同時に又苛酷な条件を持つようになる。国際信義を裏切った不意打から、太平洋戦争が始まって以来、先ず日本国中ではこれまで漠然と考えられていた「日本の婦人」というものが急にはっきりと「戦う日本の婦人」という角度から見られ、語られ、型に嵌められよう・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・そこで随分情けない、苛酷なことをもためらわずにする。しかし生得、人の悶え苦しんだり、泣き叫んだりするのを見たがりはしない。物事がおだやかに運んで、そんなことを見ずに済めば、その方が勝手である。今の苦笑いのような表情は人に難儀をかけずには済ま・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫