・・・未開な、暗い頭脳が一むきに、ぜすきりしとを信奉し、まことに神の羊のように一致団結して苦難に堪えて来た力は、驚くべきだ。公平な立場から書かれた歴史を読むと、私共はシャヴィエル、ワリニヤニ等初期の師父――伴天連達が、神の福音をつげるに勇ましかっ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・新しい日本が、より人間らしい世界正義の道に立って進んでゆくために、苦難を経験しつつある日本婦人の社会的成長の一つの目標として婦人参政権も認められたとき、私たちは、これからこそ、重苦しい過去の絆をふりはらって、思慮と勇気とに満ち、女らしい聰さ・・・ 宮本百合子 「婦人民主クラブ趣意書」
・・・ 参吉と話したときもそうであったが、多喜子には、別な内容で秋子という女優のひとが経て行かなければならないであろう苦難の複雑さが深く思いやられるような気がした。「一緒の仕事をしていて、しかもあの方たちみたいに、どっちかって云うと旦那様・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・ スペインが流血の苦難を通じて世界文化・文学の領域の中に新しい自身の価値を創造しつつ、同時にヨーロッパの文化的良心の沸騰する発露、更新力となりつつあることを疑うものは今日いないのである。『文芸』の「現在中国文学界鳥瞰図」「抗日作・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・その作品の中に生き、泣き、雪の中を這って殺された子供の死骸を我が家に引摺って来る母親の、肉体そのものの温かさ、重量、足音の裡に、彼女たちの心もちそのものとして、彼女らがそうして生きとおした苦難の意義が暗示されているのである。 局面の展開・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・絶えず病気で、非常に貧しく、ときどきその日のパンにさえ事を欠く彼女は「自分の苦難を少しでも忘れるため、自分の孤独を慰めるため、自分自身の伴侶になるような気持で」ものを書きはじめた。 偶然のことから二三の作家と知り合うようになり、オオドゥ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・この后の苦難と、首なき母親の哺育ということが、この物語のヤマなのである。王子は四歳まで育って、母后の兄である祇園精舎の聖人の手に渡り、七歳の時大王の前に連れ出されて、一切の経過を明らかにした。大王は即日太子に位を譲った。新王は十五歳の時に、・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫