・・・今来た入口に、下駄屋と駄菓子屋が向合って、駄菓子屋に、ふかし芋と、茹でた豌豆を売るのも、下駄屋の前ならびに、子供の履ものの目立って紅いのも、もの侘しい。蒟蒻の桶に、鮒のバケツが並び、鰌の笊に、天秤を立掛けたままの魚屋の裏羽目からは、あなめあ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ あまり痛むなら、菎蒻でも茹でて上げようか?」「なに、懐炉を当ててるから……今日はそれに、一度も通じがねえから、さっき下剤を飲んで見たがまだ利かねえ、そのせいか胸がムカムカしてな」「いけないね、じゃもう一度下剤をかけて見たらどうだね・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ 卵に神経があるのだったら、彼は茹でられている卵だった。 鍋の中で、ビチビチ撥ね疲れた鰌だった。 白くなった眼に何が見えるか! ――どこだ、ここは?―― 何だって、コレラ病患者は、こんなことが知りたかったんだろう。 ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・挽肉をみじんにきざんだ玉葱と一緒にいためて食塩と胡椒で普通に味をつけ、卵を茹でてそれを細かく切って、いためておいた肉とまぜます。別にめりけん粉を卵と水でゆるすぎない様にといたものを拵えて、フライパンにバタをぬってめりけん粉をといたものを少し・・・ 宮本百合子 「十八番料理集」
出典:青空文庫