・・・何時の間に花が咲いて散ったのか、天気になって見ると林の間にある山桜も、辛夷も青々とした広葉になっていた。蒸風呂のような気持ちの悪い暑さが襲って来て、畑の中の雑草は作物を乗りこえて葎のように延びた。雨のため傷められたに相異ないと、長雨のただ一・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・一、二頁見ているうちに急に全身が熱くなって来た。蒸風呂にでもはいったようで室内の空気がたまらなく圧しつけるように思われた。すぐに立って左側の窓をあけたが風を引きかえしてはいけないと思ってすぐにまた締め切った。上衣を脱いで右側の机の上に投げ出・・・ 寺田寅彦 「病中記」
・・・二階は蒸風呂です。だもんで下にいて、些か能率低下なの。家で夏をすごすのは四年目です。ではどうか御機嫌よく。[自注7]徳さんもこの暑いのに可哀そうに――坂井徳三がプロレタリア文化運動のため検挙されて未決にいた。[自注8]健坊―・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫