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・・・ 聖書に在る「蕩児の帰宅」を、私はチラと思い浮べた。 昼食をすませて出発の時、「トランクは持って行かないほうがよい、ね、そうでしょう?」と北さんは、ちょっと強い口調で私に言った。「兄さんから、まだ、ゆるしが出ているわけでもないの・・・
太宰治
「故郷」
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・・・ 荷風は、ロマンティックな蕩児として大学を追われ、アメリカに行き、フランスに着し、帰朝後は実業家にしようとする家父との意見対立で、俗的には世をすね、文学に生涯を没頭している。 日露戦争前後の日本の社会、文化の水準とヨーロッパのそれと・・・
宮本百合子
「歴史の落穂」