・・・それらの間の優劣を区別する場合の目標は、著者の主観によって選まれた問題の構成のしかたとその解法の選択いかんによって決定されるのであって、この優劣判断の際には、また審判者の個性のいかんによって、必ずしも衆議一決というわけに行かない場合がある。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・子供等もこの発見にひどく興味を感じて、帰路にもう一遍よく見定めようということに衆議一決した。 国府津と小田原の中間に「雀の宮」という駅があったようだと子供達と話していたら、国府津駅の掲示板を見ていた子供の一人からそれは「鴨の宮」だという・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ それと事がらは別だが、いわゆる輿論とか衆議の結果というようなものが実際に多数の意見を代表するかどうか疑わしい場合がはなはだ多いように思う。それから、また志士や学者が言っているような「民衆」というような人間は捜してみると存外容易に見つか・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・いくら猫でもそれは残酷な事で不愉快であったが、追放の衆議の圧迫に負けてしまってとうとう入院させて手術を受けさせた。 手術後目立っておとなしく上品にはなったが、なんとなく影の薄い存在となったようである。それからまもなくある日縁側で倒れて気・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・というエセーニンの詩がよまれた時に衆議一決している。だが、果して詩人エセーニンは、このコンムーナの一同が武器を揃えて、パンフョーロフが正しく描写しなかったとして攻撃している農村の集団化について、社会主義的な見方を持っていただろうか? エ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・つまりやめ時だったのだろう、という衆議に一決しています。今年の冬は私は大変寒そうです。足の冷え方が格別です。夜具が重くて、フウフウで狐の子のように落葉をかけて寝てみたい。重い病気のあとはそうですね。あなたもボタンのかかるシャツは一冬お着にな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ふと小姓の一人が、あれが撃てるだろうかと言い出したが、衆議は所詮打てぬということにきまった。甚五郎は最初黙って聞いていたが、皆が撃てぬと言い切ったあとで、独語のように「なに撃てぬにも限らぬ」とつぶやいた。それを蜂谷という小姓が聞き咎めて、「・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫