・・・その短い文章は例の通りキビキビとして極めて要を得ているのは勿論であるが、その行文の間に卑怯な迫害者に対する苦々しさが滲透しているようである。彼に対する同情者は遠方から電報をよこしたりした。その中にはマクス・ラインハルトの名も交じっていた。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 実際作物の創作心理から考えてみても、考えていたものがただそのままに器械的に文字に書き現わされるのではなくて、むしろ、紙上の文字に現われた行文の惰力が作者の頭に反応して、ただ空で考えただけでは決して思い浮かばないような潜在的な意識を引き・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・そういう場合にはきっと、その発明者が素人であるという事自身が、その発明が専門家の発明よりも立派なものであることを証明するかのごとき錯覚を起こさせるような麻酔剤が記事の行文の間に振りかけられている。また苦心の年月の長かったこと自身がその発明の・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・しかし行文の間に少しでも臆断のにおいがあればそれは不文の結果である。推理の誤謬や不備があればそれは不敏のいたすところである。このはなはだ僭越と考えらるべき門外漢の一私案が、もし専門学者にとってなんらかの参考ともならば、著者としての喜びはこれ・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・が読者にあたえる印象の総和は、錯雑と神経衰弱的亢奮と個人的な激情の爆発とである。行文のあるところは居心持わるく作者の軽佻さえ感ぜしめる。これはどこから来るのであろうか。「子供の世界」という小市民的な一般観念で、階級性ぬきに子供の生活を「・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 私どもはこのような行文を読んで、これはまことに正宗白鳥の小説の中の文章ではないのかと、おどろいてそれが横光の作中にあることを考えなおす次第である。 久内はかかる気持で生きつつある男なのである。このように沈下した精神状態は、心理学の・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・級にまで急進思想がひろがっていたこと、及び、プロレタリア文学運動の先進者が勤労階級出身であるとしても一面にどのような歴史性をもって立ち現れているのであるかという現実の複雑な内容をも、はっきりと、作品の行文の間に読みとることが出来るのである。・・・ 宮本百合子 「『地上に待つもの』に寄せて」
・・・の作者達の行文の間に漲っている。魯迅によって切りひらかれた近代中国の優秀な文学は、そうした意味で、生粋の人民の文学の要素をもっている。 アメリカの文学は、ブルジョア民主社会内の個性と理性とが発展し得る道行きの様々な経過と摩擦とを鋭く反映・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・構想雄大で行文はいわゆるプロレタリア的でない清新の美に満ちていると、さながらその社会的根拠とともに創造性をも喪失したブルジョア文学の陣営内に一人の精力的な味方を発見し得たかのような喝采を送った。 わがプロレタリア作家同盟および文学に関心・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・母が幼年及び少女時代を過した築地向島時代の思い出には、明治開化期前後の東京生活が髣髴として興味ふかく初霜には若かりし父母のつつましい日常の姿が簡素な行文の間に愛らしく子等の前に輝いている。 頁数その他の関係から、この一冊には母が書きのこ・・・ 宮本百合子 「葭の影にそえて」
出典:青空文庫