・・・近ごろ朝日グラフで、街頭のスケッチを組み合わせたページが出るが、ああいうものを巧みに取り合わせて「連句」にすることもできる。 器械の活動美を取り入れたフィルムもあるが、やはりこしらえものは実に空疎でおもしろくない。たとえば「メトロポリス・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・この歌が街頭へ飛び出して自動車のおやじから乗客の作曲家に伝染し、この男が汽車へ乗ったおかげで同乗の兵隊に乗り移る。兵隊が行軍している途中からこの歌の魂がピーターパンの幽霊のような姿に移って横にけし飛んだと思うと、やがて流浪の民の夜営のたき火・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・そうしてまた実に驚くべく非科学的なる市民、逆上したる街頭の市民傍観者のある者が、物理学も生理学もいっさい無視した五階飛び降りを激励するようなことがなかったら、あたら美しい青春の花のつぼみを舗道の石畳に散らすような惨事もなくて済んだであろう。・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ 僕は銀座街頭に於て目撃する現代婦女の風俗をたとえて、石版摺の雑誌表紙絵に均しきものとなした。それはまた化学的に製造した色付葡萄酒の味にも似ている。日光の廟門を模擬した博覧会場の建築物にも均しい。菊人形の趣味に一層の俗悪を加えたものであ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・彼は心地よげに街頭の闇の中に消え去った。 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・ ところが夏前後から、街頭に千人針をする女の姿が現れはじめた。良人を思い、子を思う妻と母との熱誠が、変化した社会の事情の勢につれて、街頭にあふれ出た。この時はもう優美な日本女性のシンボルであった丸髷はエプロン姿にその象徴をゆずった。・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ これらの写真にのぼされている女の生活の姿は、昨今歳暮気分に漲って、クリスマスのおくりものや、初春の晴着の並べられている街頭の装飾と、何という際立った対照をなしている事であろう。 先頃前進座で「噛みついた娘」という現代諷刺喜劇が上演・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・たとき、それを肯定してハイそうです、というか、あるいは否定してイイエそうではありません、というかしなければならない場合、日本の、特に婦人は、自分の判断をはっきり言葉にすることを非常にためらう風がある。街頭録音などをきいても、婦人にマイクが向・・・ 宮本百合子 「今年のことば」
・・・千人針というようなものが目新しい街頭風景であった頃は、確かにその気分が親たちの分別から流れ出して、若い男の思慮へ入り、そして、若い女のひとたちの眼のなかにも読みとられる反映となっていたと思う。多くの若い婦人を読者とする雑誌の小説などは、敏感・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・却説去廿七日の出来事は実に驚愕恐懼の至に不堪、就ては甚だ狂気浸みたる話に候へ共、年明候へば上京致し心許りの警衛仕度思ひ立ち候が、汝、困る様之事も無之候か、何れ上京致し候はば街頭にて宣伝等も可致候間、早速返報有之度候。新年言志・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫