・・・いやに気位を高くして、家が広いから、それにどうせ遊んでいる身体、若いものを世話してやるだけのこと、もっとも性の知れぬお方は御免被るとの触込み。 自体拙者は気に入らないので、頻りと止めてみたが、もともと強情我慢な母親、妹は我儘者、母に甘や・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ただ汚ないばかりでなく、見るからして彼ははなはだやつれていた、思うに昼は街の塵に吹き立てられ、夜は木賃宿の隅に垢じみた夜具を被るのであろう。容貌は長い方で、鼻も高く眉毛も濃く、額は櫛を加えたこともない蓬々とした髪で半ばおおわれているが、見た・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・先生はこの頃になって酒を被ること益々甚だしく倉蔵の言った通りその言語が益々荒ら荒らしくその機嫌が愈々難かしくなって来た。殊に変わったのは梅子に対する挙動で、時によると「馬鹿者! 死んで了え、貴様の在るお蔭で乃公は死ぬことも出来んわ!」とまで・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 若し、も一度、××の生活を繰りかえせと云われたら、私は、真平御免を蒙る。 黒島伝治 「入営前後」
・・・うような、気のきいた事を提出致しまして、そして皆さんの思召に酬いる、というような巧なる事はうまく出来ませぬので、已むを得ず自分の方の圃のものをば、取り繕いもしませんで無造作に持出しまして、そして御免を蒙るという事に致すことにしました。ちょう・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・文徳実録に見える席田郡の妖巫の、その霊転行して心をくらい、一種滋蔓して、民毒害を被る、というのも心の二字が祇尼法の如く思えるところから考えると、なかなか古いもので、今昔物語に外術とあるものもやはり外法と同じく祇尼法らしいから、随分と索隠行怪・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・と父君と母上に向って動議を提出する、父君と母上は一斉に余が顔を見る、余ここにおいてか少々尻こそばゆき状態に陥るのやむをえざるに至れり、さりながら妙齢なる美人より申し込まれたるこの果し状を真平御免蒙ると握りつぶす訳には行かない、いやしくも文明・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・自分に利用するのは養子の権利かも知れないが、こんなものの御蔭を蒙るのは一人前の男としては気が利かな過ぎると思うと、あり余る本を四方に積みながら非常に意気地のない心持がした。『東洋美術図譜』は余にこういう料簡の起った当時に出版されたもので・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・高原君は御覧の通りフロックコートを着ておりましたが、私はこの通り背広で御免蒙るような訳で、御話の面白さもまたこの服装の相違くらい懸隔しているかも知れませんから、まずその辺のところと思って辛抱してお聴きを願います。高原君はしきりに聴衆諸君に向・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・坊主の除れたフランスのセーラーの被る毛糸帽子。印度の何とか称する貴族で、デッキパッセンジャーとして、アメリカに哲学を研究に行くと云う、青年に貰った、ゴンドラの形と金色を持った、私の足に合わない靴。刃のない安全剃刀。ブリキのように固くなったオ・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
出典:青空文庫