・・・ 教員の生活保証 事変以来、小学教員の不足と、その不足を至急に補うことから生じる質の低下とは心ある者を考えさせていたが、偶小学校教員の万引横領事件が発覚したということである。 これは勿論最も不幸な例外であろ・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・時ニュースで充満した新聞ではよめず、雑誌でも書かない、そういう日々の村や町の商売、家族の生活と感情が、誇張ない文章で数字なども出して書いたものをよむことは前線において切りはなされている現実の他の部分を補うに精神上役立つことが多いだろうと思い・・・ 宮本百合子 「身ぶりならぬ慰めを」
・・・米の不足を補うために、東京市は馬鈴薯の種をとりよせ、それを十坪以内の土地の利用者に限って分ける、という話である。その記事をよんだときも、何となし十坪以内の地べたを利用して植る、ということに、ぴったりしない感じがした。そういう面積を標準とした・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
・・・しかしその欠点は母親が適当に補うことができる。純一君の場合は、母親がこの緩和につとめないで、むしろ父親の癇癪に対する反感を煽ったのではなかろうか。そのために、年とともに消えて行くはずの折檻の記憶が、逆に固まって、憎悪の形をとるに至ったのでは・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫