・・・ 勘は天来のものではなくて、人間の努力、反復、鍛錬の結果が蓄積して、複合的な直覚が特定の範囲で発動し、肉体の動きまでを支配する、そういう意志的な要素を底流とした心理であるから、勘の内容は、反復され、努力されることの質に応じて具体的に相異・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ この文学の動きの方向で、日本の近代文学の自我は初めて複合的な集団的な歴史的に動く自我へ成長発展する可能を示されたのであった。ところが、日本独特のせわしく迅い時代の推移は、十分その動きを成熟させないうち、その文学の方向をとざすこととなっ・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・ソヴェト連邦は新しい社会の機構によって、婦人の性を妻、母として保護しつつ、社会的にますます人間性の高められた複合単位として経済的、政治的、文化的に男女一対の内容を育てつつある事実は、世界の進歩的な男女に、男と女との恋愛や結婚の幸福の土台とな・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・が、実は感覚的表徴のそれのごとく象徴せられた複合的綜合的統一体なる表徴能力を所有することは不可能なことである。此の故官能表徴は表象能力として直接的であるそれだけ単純で、感覚的表徴能力のそれのようには独立的な全体を持たず、より複雑な進化能力を・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫