・・・ 地震津波台風のごとき西欧文明諸国の多くの国々にも全然無いとは言われないまでも、頻繁にわが国のように劇甚な災禍を及ぼすことははなはだまれであると言ってもよい。わが国のようにこういう災禍の頻繁であるということは一面から見ればわが国の国民性・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・このことは朝鮮満州をそれと同緯度の西欧諸国と比べてみればわかると思う。ただ日本はその国土と隣接大陸との間にちょっとした海を隔てているおかげでシベリアの奥にある大気活動中心の峻烈な支配をいくらか緩和された形で受けているのである。 比較的新・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・また一方においては西欧のユーモアと称するものにまでも一脈の相通ずるものをもっているのである。「絞首台上のユーモア」にはどこかに俳諧のにおいがないと言われない。 風雅の精神の萌芽のようなものは記紀の歌にも本文の中にも至るところに発露してい・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・九年の星霜は決して短きものではない。西欧のオペラ及バレエが日本の演芸界に相応の感化を与えるには既に十分なる時間である。況や帝国劇場は西洋オペラを招聘する以前に在って、曾て一たび歌劇部を設けて部員を教練したことさえあるに於てをや。思うに日本の・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・ 先生はわが邦歴史のうちで、葡萄牙人が十六世紀に始めて日本を発見して以来織田、豊臣、徳川三氏を経て島原の内乱に至るまでの間、いわゆる西欧交通の初期とも称して然るべき時期を択んで、その部分だけを先年出版されたのである。だから順序からいうと・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・日本、中国、朝鮮をこめての東洋と西欧の民主主義をうちたて、世界の平和を守ろうとするすべての人々は、めいめいの日常生活のなかに、こまごまとした形ではいりこんで来ている問題として、ファシズムに反対し反民主的な侵略戦争に反対しなければ平和も民主主・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・したがって、西欧の近代文学の中軸として発展してきた一個の社会人として自立した自我の観念も、日本ではからくも夏目漱石において、不具な頂点の形を示した。リアリズムの手法としては、志賀直哉のリアリズムが、洋画史におけるセザンヌの位置に似た存在を示・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・重要な作品のテーマであれば、それにふさわしい表現の手段が彼としては無くてはならず、しかも、西欧の文学に通暁していたこの作者が、題材として手柔らかな、纏めやすく拵えやすい過去の情景へ向ってそれを求めたということの精神の機微にも目をひかれる。西・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・われらの故国のおくれた資本主義経済の事情は、時間の上で、西欧諸国から三百年おくれていたというに止らなかった。やすいものを早く、どっさりこしらえて、できるだけあっちこっちに売りさばかなければならず、その原料仕入れに気も狂わんばかりあせり立って・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・一つの民族の社会と文学の健全にとっては、少数の西欧文学精神のうけつぎてが、自国の文学について劣等感に支配されつつ、翻訳文学であるならば、つとめてその優性をひき出すとしても、多くプラスするところはない。中国の文学的教養の大きい部分がフランス文・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
出典:青空文庫