・・・そんなことを為る奴もあるが、俺の方ではチャンと見張りしていて、そんな奴あ放り出してしまうんだ。それにそう無暗に連れて来るって訳でもないんだ。俺は、お前が菜っ葉を着て、ブル達の間を全で大臣のような顔をして、恥しがりもしないで歩いていたから、附・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・「どうだか。見張りで聞いて来らあ」「いや、構わねえ。お前、機械を片附けといて呉れよ。俺が仕度して来るから」「そうかい」 秋山は見張りへ、小林は鑿を担いで鍛冶小屋へ、それぞれ捲上の線に添うて昇って行った。何しろ、兎に角火に当ら・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・が安岡は作りつけられたように、片っ方の眼だけで便所の入り口を見張り続けた。 深谷は便所に入ると、ドアを五分ばかり閉め残して、そのすき間から薄暗い電燈に照らし出された、ガランとした埃だらけの長い廊下をのぞいていた。「やっぱり便所だった・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・ 今日、この有様の中でも、銀行家や金持ちは、コモかぶりを置いて暮しているという話をきくとき、私たち女の正直な心は、おどろいて目を見張ります。 そんなことがあって、いいものでしょうか。みんなが飢えて死にそうだというとき、それでいいもの・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・ 真の芸術の厳な暁光におっちょこちょいの人達は驚異の目を見張りやがてはどこへかその姿をかくして仕舞うことを希望し又必ずそうなくてはならない事であると思う。 宮本百合子 「無題(二)」
出典:青空文庫