・・・なだらかに高低のある畑地の向こうにマッカリヌプリの規則正しい山の姿が寒々と一つ聳えて、その頂きに近い西の面だけが、かすかに日の光を照りかえして赤ずんでいた。いつの間にか雲一ひらもなく澄みわたった空の高みに、細々とした新月が、置き忘れられた光・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 河に沿うて付いている道には、規則正しい間隔を置いて植えた、二列の白楊の並木がある。白楊は、垂れかかっている白雲の方へ、長く黒く伸びている。その道を河に沿うて、河の方へ向いて七人の男がゆっくり歩いている。男等の位置と白楊の位置とが変るの・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・しかし日光に透かして見るとこれとはまた独立な、もっと細かく規則正しい簾のような縞目が見える。この縞はたぶん紙を漉く時に繊維を沈着させる簾の痕跡であろうが、裏側の荒い縞は何だか分らなかった。 指頭大の穴が三つばかり明いて、その周囲から喰み・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・厳密に言えば、時間の連続な流れの中から断続的に規則正しい間隔の断片を拾い上げたものを逆の順序に展開するのであるが、われわれの視覚的効果の上ではまさしく時の逆行となるのである。 時の逆行によって物の順序が逆になり原因と結果が入り代わるとい・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・八月ごろの東京の風の一日じゅうの変化を調べてみると、やはり海陸風に相当する規則正しい風の周期的変化があるが、ただ東京では日々変化の位相が著しくくずれているのと、夏期の南東の季節風がかなりよく発達しているために、夕なぎに相当する時刻にはこの季・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・ そういうかなり規則正しい爆笑の週期的発作が十秒ないし二十秒ぐらいの間隔をおいて実に根気よく繰り返されていた。 何を話しているか何がおかしいかわからない傍観者の自分には、この問題的な爆笑が全く機械的な現象のように思われて来た。何かわ・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・そうして、ある週期のものだけが特に助長されるような条件が加われば規則正しい放射像となるというふうに考えられる。こう考えると、不規則な放射形の場合でも、それはいろいろの週期のものがたくさんに合成された結果と見なすことができるし、その多くの「週・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ この場合に油膜の存在と摩擦の関係が明らかになったとしても、この場合の摩擦によって金だらいの規則正しい振動の誘発される機巧についてはまだよくわからないことがかなりに多く伏在しているのである。クラドニの実験や、またヴァイオリンの場合に松や・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・南洋では年じゅう夏の島がある、インドなどの季節風交代による雨期乾期のごときものも温帯における春夏秋冬の循環とはかなりかけ離れたむしろ「規則正しい長期の天気変化」とでも名づけたいものである。しかし「天気」という言葉もやはり温帯だけで意味をもつ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 無闇に井戸を掘って熱泉を噴出させたために規則正しい大湯の週期的噴泉に著しい異状を来したというので県庁の命令で附近の新しい噴泉井戸を埋めることになった。自分は官命によってその埋井工事を見学に行ったが、それは実に珍しい見ものであった。二、・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
出典:青空文庫