・・・全く何も比較の尺度のない一様な緑の視界はわれわれの空間に対する感官を無能にするらしい。 途中から文科のN君が一緒になった。三人のプレイが素人目に見てもそれぞれちゃんとはっきりした特徴があって面白い。クラブと球との衝撃によって生ずる音の音・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ 魚や鳥のように人間の両眼の視界がそれぞれに身体の左右の側の前後に拡がっていたとしたら吾人の空間観がどんなものになるかちょっと想像することが六ヶしいという意味のことを書いたのに対して、こういう実験をすすめられたのである。しかし人間の・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・また海岸の森林が魚類に如何なる影響があるかという問題があるが、これもいわゆる魚視界と名づける光学上の問題が多少関係して来る。また塩魚類鰹節の乾燥とか寒天の凍結とかいう製造方面の事柄にも物理学応用の範囲は意外に広大であるように見受けられる。近・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・見ているうちにその視界がだんだんに上下左右にもまた前後にも広がって行き、そうしてその中にいたあるいは在った人物も風景も、それからそれへと活動写真のように変転推移して行く。もしこれをそのままに放任して行けば末はどこまで行くかわからない。しかし・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・人類のすべてにとっての冒険ならざる可能として実現してみようとする思いだけがあっただろう。人類の視界の拡大というひろやかな想像に動かされただろう。空をとぶ大きな鳥のたのしそうに悠々とした円舞を見あげて、あんな風にして自分たちも自由に空をとんで・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
出典:青空文庫